2017年4月4日火曜日

【書評】変身【フランツ・カフカ】

【変身】1915年ぐらい発行
【作者:フランツ・カフカ】

"布地の販売員をしている青年グレーゴル・ザムザは、ある朝自室のベッドで目覚めると、自分が巨大な毒虫になっていた"という一節で有名ですね。有名であると同時に本書はこの一節で幕を開けます。ザムザは一家の大黒柱。ザムザと家族は一体どうなるのか、といったところです。そいではちょいとしたあらすじをどうぞ。


かなり雑なあらすじ(第一章)

布地の販売員をしている青年グレーゴル・ザムザは、ある朝自室のベッドで目覚めると、自分が巨大な毒虫になっていた。彼は両親の借金を返すために毎日早起きし出張ばかりしていた。そのことへの不満をつのらせながらもう一眠りしようとする。そうこうするうちにザムザの様子を見に店の支配人がやってきた。怠慢を非難する支配人に対して、ザムザは部屋の中から弁解するが、どうやらこちらの言葉がまったく通じないらしい。ザムザは部屋のドアまで這いずり、苦労して鍵を開けて家族たちの前に姿を現すと、彼らはたちまちパニックに陥る。母親は床の上にへたり込み、父は泣き出し、支配人は声を立てて逃げ出す。支配人に追いすがろうとするザムザだったが、しかしステッキを持った父によってバキっとド突かれ、自室に追い立てられてしまう。


……一家唯一の稼ぎ頭だったザムザが毒虫へと変身したことで、周囲の状況は一変します。家族にとっては稼ぎがなくなりますし、当然支配人も困ってしまう。この時点で違和を感じる人もいるでしょうが、兎に角次へ参りましょう。



かなり雑なあらすじ(第二章)

結局、ザムザは自分の部屋に閉じこもってひっそりと生活することになった。彼の世話をするのは妹のグレーテで、彼女はザムザの姿を嫌悪しつつ食べ物を差し入れ、また部屋の掃除をした。ザムザの食べ物に対する嗜好はまったく変わってしまっており、腐りかけた野菜やチーズばかり食べていた。日中は窓から外を眺めて過ごし、眠る時には寝椅子の下に体を入り込ませ、また妹が入ってくるときにも気を使ってそこに身を隠した。ドア越しに聞こえてきた会話によると、一家にはわずかながらも倹約による貯えがあり、唯一の働き手を失った今でも1、2年は生活していくことができるようだった。

そのうちザムザは部屋の壁や天井を這い回る習慣を身に付け、これに気が付いたグレーテは、這い回るのに邪魔になる家具類を彼の部屋からどけてやろうと考える。グレーテは母親と協力して家具類を運び出しはじめ、ザムザも当初は気を使って身を潜めているが、しかし彼女たちの会話を聞いてふと、自分が人間だった頃の痕跡を取り除いてしまってもよいものかという思いを抱く。ザムザが自分の意思を伝えようと、壁際にかかっていた雑誌の切り抜きにへばりつくと、その姿を見た母親は気を失ってしまう。ちょうどその頃、新しく勤めに就いていた父親が帰宅する。事態を悪く見た彼はグレーゴルにリンゴを投げつけ、クリティカルヒットしたザムザは満足に動けなくなってしまう。


……ザムザの家族は彼のために奉仕します。彼を思い家族が部屋を快適にせんとするが、わちゃわちゃした挙句ザムザは深手を負う。重要な点は、倹約(要は節約)により生活自体はできるということ、父親が新たに働き始めたこと。ザムザの変身とともに、家族もまた変わっていくのです。


かなり雑なあらすじ(第三章)

父親の投げたリンゴがクリーンヒットしたザムザはその傷に1ヶ月もの間苦しめられた。一家は切り詰めた生活をし、母も妹も勤め口を見つけて働いていた。妹はもうザムザの世話を熱心にしなくなっていた。女中にも暇が出され、代わりに年老いた大女が手伝いに雇われた。彼女は偶然目にしたザムザをまったく怖がらず、しばしば彼をからかいに来た。また家の一部屋が3人の紳士に貸し出され、このためグレーゴルの部屋は邪魔な家具を置いておく物置と化してしまっていた。

或る日、居間にいた紳士の一人がグレーテが弾くヴァイオリンの音を聞きつけ、気まぐれからこちらに来て演奏するように言う。グレーテは言われたとおりに紳士の前で演奏を始めるが、紳士たちはすぐに興冷めしタバコをふかしはじめる。一方ザムザは彼女の演奏に感動し、自室から這い出てきてしまう。ザムザの姿に気づいた父親は慌てて紳士たちを彼らの部屋に戻らせようとするが、この無礼に紳士たちは怒り、即刻この家を引き払い、またこれまでの下宿代も払わないと宣言する。失望する家族たちの中で、グレーテはもうザムザを見捨てるべきだと言い出し、父もそれに同意する。やせ衰えたザムザは家族の姿を目にしながら部屋に戻り、家族への愛情を思い返しながら息絶える。

翌日、ザムザの死骸は手伝い女によって片付けられる。休養の必要を感じた家族はめいめいの勤め口に欠勤届を出し、3人そろって散策に出る。話をしてみると、どうやら互いの仕事はなかなか恵まれていて、将来の希望も持てるらしい。それに娘のグレーテは長い間の苦労にも関わらず、いつの間にか美しく成長した。両親は、そろそろ娘の婿を探してやらなければと考えるのであった。



……ザムザは家族に見捨てられついに息絶えてしまいますが、物語の最後は希望に満ちてると感じられます。これまで一家はザムザに稼ぎを一任していましたが。そのザムザが毒虫へと変貌したことをきっかけに各々が働きだし、希望を見出す。タイトルの"変身"はザムザだけでなくその家族にも捧げられた言葉なのです。


まとめ

あらすじはこんな感じ。この物語、ザムザが毒虫となったと綴られてますが、別にこれは"働けなくなるほどの重大な疾患、疾病"でもいいんですよね。そうなれば家族からは毒虫が如く煙たがられ、その世話を放棄されてしまうこともあるのですから。そう考えると日本の社会問題ともマッチしてて全く他人事じゃないのですね。本書の名著たる所以はまさにこういった"いくつもの視点、解釈によってどんな人にも刺さる命題"であるってところかと。ただ単純に表面的に読み進めてもなんだこれ?と思って終わってしまうのでしっかり考えながら読もうな!家族ひでぇ!と思うもよし。ザムザの変身をきっかけに家族が変われた!と思うもよし。ザムザが家族を思い死んでいく様に涙するもよし。うーん、名著!


毒虫』という表現について

さて、冒頭ザムザは毒虫へと変身してしまうわけですが、ここのところの原文は"Als Gregor Samsa eines Morgens aus unruhigen Träumen erwachte, fand er sich in seinem Bett zu einem ungeheueren Ungeziefer verwandelt."となっています。ドイツ語なんですが、実はここの翻訳にはかなり幅があります。毒虫になったのか。害虫となったのか。あるいはそれ以外。作中のザムザは毒を持ってるような表記はありません。しかし壁を這う、足をいくつも生やしてるという点を鑑みるとおそらく虫。
実はUngezieferという単語は厳密には"贄、供物として使えないほど不浄の生物"という意味を持っています。ここをわかりやすく訳したのが毒虫なのですね。実際いくつかの翻訳がありますが大抵は『なんらかの虫』に落ち着いてます。……翻訳って面白!

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